なぜ「炭酸ジュース」は禁止なのか?本当の理由

スポーツ栄養

良くスポーツの指導者がいう言葉のひとつとして、「炭酸ジュースは飲むな!」というのがあります。確かに、炭酸ジュースというと、いかにも健康には良くないイメージでもあり、とりあえず飲まない方が良いだろうと思う保護者の皆さんも多いかと思います。

それを裏付けるようなポスターが、かつて小学校に貼られていたことがあります。コーラに漬けられた歯が溶けている写真が掲載された、歯の健康を啓発するポスターです。第二次ベビーブーム世代の方だと、もしかしたら覚えているかもしれません。私は、あまりの衝撃に、今でもぼんやりと覚えています。確かにコーラに歯を漬けておくと、歯は溶けるようですが、口の中にずっとコーラを含んでいる人もいない(ずっとジュースを飲み続けてるような人は別です)でしょうし、歯をしっかり磨いておけば問題ないでしょう。もし、気になるのであれば、酸の強い飲料を飲んだ後は、真水などで洗口すれば良いでしょう。

オムロンさんでも

日本小児歯科学会は、子どもが通常の食事をしたときは早めに歯磨きをして、歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことのほうが重要です、という見解を表しています。

酸性飲料を飲んだとしても、エナメル質への酸の浸透は象牙質よりずっと少なく、唾液が潤っている歯の表面は酸を中和する働きがあります。酸性飲料の頻繁な摂取がない限り、すぐには歯が溶けないように防御機能が働いているので、一般的な食事では酸蝕症は起こりにくいと考えられるからだといいます。

子どもの歯磨きの目的は、虫歯予防のために歯垢の除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除き、その原因となる糖質を取り除くことです。歯磨きをしないままでいると、歯垢中の細菌によって糖質が分解されて酸が産生されて、歯が溶け出す脱灰が始まります。このように、歯垢中の細菌がつくる酸が歯を脱灰してできる虫歯と、酸性の飲食物が直接歯を溶かす酸蝕症とは成り立ちが違うものだという説明です※1

https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/life/173.html

※1日本小児歯科学会(食後の歯磨きについて)

もともと、私はジュース類をそれほど好んで飲まなかったので、このポスターによって影響を受けることはありませんでしたが、しかしながら、子供はあのシュワシュワとした刺激が大好きで、しかも好んで飲みます。子供の頃に飲んだコーラの衝撃たるや…、美味しいとは程遠く、「のどが痛いよー」などと涙目になりながら飲んでいた頃が懐かしく感じられます(遠い目)

なぜジュース禁止ではないのか?

ただし、ジュース全般を禁止している訳ではなく、ビタミンCを補給できる100%オレンジジュースや、最近ではポリフェノールを多く含むビートやブラックベリーなどを含むジュースなどは、積極的に取り入れられています。

しかも、練習中はスポーツドリンクを飲んで、水分、電解質(ミネラル)とエネルギーを補給しています。広い意味では、スポーツドリンクも清涼飲料水ですので、ジュースと同じとみなして良いでしょう。

先に書いたように、ジュースには水分、電解質、エネルギー、ビタミン、ミネラル、たんぱく質(アミノ酸)を含むものもありますし、ポリフェノールなど抗酸化作用を期待したものが含まれるものもあります。しかも、試合前には胃の通過時間も短く、早くエネルギーなどを補給できるために、積極的に利用されています。

一方で、ただの砂糖水と同じように糖質以外含まれていないジュースもあります。これらはエネルギーの補給にはなるかもしれませんが、他の栄養素を摂取することはできません。しかも、糖質の濃度が高すぎるので、速やかに水分が腸の壁から吸収されず、水分補給としても適していません。

このように、使い方や目的によっては、ジュースは利点も欠点もあります。だから、今何が必要なのかということを考えて、選択する必要があります。

炭酸ジュースは体重を増量できる?

炭酸ジュースの大部分は、糖質しか含まれていないものが多く、ビタミンなどの補給にはなりません。では、エネルギーを補給するのには向いているのか?これも使い方次第です。

例えば、体重を増やしたい選手が、「カロリーや糖質がたくさんあるから炭酸ジュースを飲んで体重を増やそう!」と考え、練習前や試合前に炭酸ジュースを飲んだとします。試したことがある方もいるかもしれませんが、走ったりするとお腹の中で炭酸のガスが発生して、練習中にお腹が張って苦しかったり、ゲップがでたりして、今一つ練習に集中することができません。これが試合前だったとしたら、せっかく補食を食べようと準備していても、お腹が炭酸のガスで一杯になっていて、十分に食べられないかもしれません。もちろん、試合中や試合前のアップも上手くいかないので、100%の力を出し切ることができなくなってしまいます。

では、練習後だったらどうでしょう?たしかに、お腹は満たされたような気がしますし、実際にガスで胃が張ってお腹も一杯になります。すると、食事が十分に食べられなくなってしまいます。練習後は、夕飯まで時間があるのなら、本来はジュースではなく補食を食べるべきでしょうし、その方が糖質だけでなく、身体を修復するたんぱく質やビタミン、ミネラルも少なからず補給できるはずです。

また、食事の前だったとしたら、胃は空っぽなので、速やかに胃を通過して糖質は腸から吸収されます。すると、急激に血糖値が上昇し、脳が「もうエネルギーは十分ですよ」という風に判断し、身体の小さな選手の場合だと満腹中枢が働くかもしれません。そうなれば、食欲は低下して、あまりご飯が進まなくなり、体重が増えるどころか減ってしまうかもしれません。

以上のような理由で、炭酸ジュースを飲む事によって、物理的にも体の内部からも、お腹一杯になり体重を増やすことにはつながらないでしょう。

ただ、かつてマラソンランナーの中には、コーラの炭酸をあえて抜いてしまって、スペシャルドリンクの中に入れていた選手がいました。ようするに、水分補給はスポーツドリンクや水で行い、エネルギーの部分は糖質の多いコーラ(たしかハチミツも加えていたような)で摂取していたようです。

もし、ジュースでの増量したいと考えているのであれば、例えば食後にお茶の代わりに飲むというのもアリかもしれませんが、それならば牛乳を飲んだ方がカルシウムやたんぱく質も摂取できて、エネルギーも100g当たり65kcal前後ですから、コーラ100㎖のエネルギー45kcalよりも多くなります。ですから、ジュースでの増量はあまり期待しない方が良いでしょう。

炭酸ジュースは太りやすい

一つ前の項目では、「体重を増やすことにはつながらない」という風に書きましたが、ここの見出しは矛盾した「太りやすい」という風に書いています。一体どういうことなのでしょうか?

体重を増やしたいと思うような選手は、もともと食が細かったり、身体が小さかったり、やせていたりすることが多いはずです。そのような選手にとっては、炭酸ジュースは体重を増量するためには逆効果になってしまう場合が多いです。

では、大食漢で好きな物ならいくらでも食べられるような選手や、身体が元々大きい選手、太っている選手にとっての炭酸ジュースはどうでしょう?

炭酸には食欲を増進させる効果があります。例えば、シャンパンなどとりあえず食前に飲むようなお酒には、あえて炭酸が含まれているものを選ぶことがあります。また、炭酸水(いわゆるガスだけ入って糖質は入っていないもの)についても、胃を刺激して食欲を増進させるような効果がありますので、こちらも食前に提供されることがあります。それでも、強い炭酸ガスが入っている訳ではなく、適度な刺激の物が多く、ガスでお腹一杯になるような飲み方をする訳ではありません。

同じように、上記の太っている選手が炭酸ジュースを飲んだ場合はどうでしょう?もちろん、同様に食欲を増進させ、益々食が進むはずです。また、太りやすいということは、インスリンの働きも強いかインスリンがたくさん出る人でしょうから、使わない糖質はドンドンと脂肪として蓄えることになり、益々脂肪で太りやすくなるのです。

しかも、炭酸ジュースのみで飲むということは考えにくいので、一緒にスナック菓子などを食べることになり、更に体重が増えるという悪循環となります。

体重がどうしても増えてしまうという選手の場合には、これらの炭酸ジュースに限らず、ジュース(特に糖質のみ含むようなもの)を止めるだけでも、ある程度の効果は期待できます。

ジュースに含まれるカロリーはどのぐらい?

ここまでは選手の身体のサイズに応じて話してきましたが、ここからはジュースに含まれるエネルギーや糖質などの内容の話です。どのぐらいエネルギーが含まれているのか?それはご飯何グラムに相当するのか?を表にしてみます。

他にもいろいろと飲料を上げればきりがありませんが、主に自動販売機などで見かける飲料を上げてみました。

こうしてみると、どのジュースも500㎖一本飲むと、100g強のごはんと同じぐらいのエネルギーがあります。しかし、体積で考えてみると、ごはんの方がジュース500㎖よりも小さいことが明らかです。しかも、炭酸ガスが胃の中で膨張するので、更に体積は大きく、胃を圧迫するでしょう。これを見ただけでも、増量したいのであれば、炭酸ジュースを止めておにぎりを食べていたほうがずっと有効です。

また、おにぎりやパンなどを補食で食べた場合には、糖質だけでなくたんぱく質やビタミン、ミネラルも補給できますので、増量に必要な筋肉を作るための材料も摂取できます。私がサポートしているチームでは、口酸っぱくなるほど補食を食べるように指導していますが、なかなか習慣にならない選手もいます。コツコツ補食を食べることで、必ず増量できるはずですが、三日坊主で続かない選手は増量できなくて当然です。

ちなみに各社のスポーツドリンクについても比較してみました。あくまでも糖質やエネルギーのみを比較しています。運動中や運動の間、終了直後などに速やかに水分、電解質、エネルギーを補給するためには、より糖質が多いものを選択することが効果的です。これをみると、一目瞭然。

とはいえ、ダイエットが目的で運動をしている人もいますので、その場合にはエネルギーを含まないものを選択するというのでも良いでしょう。その場合にも、汗を大量にかいて脱水の心配がある場合には、電解質を含むものを選択しましょう。

ちなみに、上記の表にあるスポーツドリンクの中でエネルギーが0kcalになっているものがあります。しかし、実際にはゼロではなく、糖質が含まれていますので、少しはエネルギーがあります。食品表示基準では、100㎖あたり5kcal未満の場合は、0kcalと表示して良いことになっています。訳が分からない方もいるでしょう。含まれている糖質も、人間が消化・吸収できるものなのか判断できないので、糖質の量だけではエネルギー量がどのぐらいなのかは、判断がつきかねるので厄介です。

ついでに、暑い時期にメディアが水分と塩分の補給ということで、スポーツドリンクを奨めているのを良く見聞きしますが、糖尿病の方や、その予備群の方にとっては、糖質がこれだけ含まれているので、どうしても血糖値は上がりやすくなります。三食きちんと食べていて、寝不足などの体調不良がない限り、水分をこまめに摂取していれば、そうそう熱中症になることもありません。これはお子さんにも言えることで、朝食を欠食したり、ほとんど食べずに出かけて行った場合などに、熱中症のリスクが高くなります。スポーツドリンクを小学校へ持参することの是非が問われたりしますが、しっかりと朝食を摂ることの方が重要だと、私は感じます。また、午前中にスポーツドリンクを飲んでしまっていると、やはりお腹一杯になっていて、給食があまり進まないということもあります。また、肥満傾向の児童についても、スポーツドリンク=健康的というようなイメージで飲まれているのであれば、少し考えなおした方が良いでしょう。

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