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日頃、アスリートのサポートをしていると、プロテインやサプリメントの話になることがありますが、これは大人に限った話ではなく、子供、特に小中学生でもジュニアプロテインを使用している選手をよく見ます。
プロテインというと、一昔前までは筋骨隆々のボディビルダーや格闘技やラグビーの選手ぐらいしか使っていないようなイメージだったかと思いますが、現在ではジュニアからシニアまでターゲットにしています。ドラッグストアーに行くと、様々な種類のプロテインに加えて、ジュニア向け、シニア向け、あるいはプロテインとは謳っていないものの、たんぱく質を意識させた商品が、商品棚に並んでいます。その影響か、手軽にプロテインを摂取できる反面、本当に必要なのか?という場面にも遭遇します。
ジュニアプロテインと通常のプロテインの違いは?
森永さんのサイトでも紹介されていますが、ジュニアプロテインと通常の大人が使用するプロテインは、実は性格が異なります。そのため、プロテインを構成する栄養成分についても異なっています。
ジュニアプロテインとは、たんぱく質とともに成長期に必要な栄養素が配合されているプロテインです。成長期には、身長が伸びたり、体重が増えたりすることで、体が変化していきます。この時期に成長のために必要なエネルギーや栄養素が不足すると、成長に影響する恐れがあります。
成長期には、体の材料となる「タンパク質」と「カルシウム」、不足しがちな「鉄」を積極的に摂ることが重要です。
https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=187&category=performance
さて、そもそもプロテインとは、いったいどのような物なのか?英語のプロテイン(protein)を日本語に訳すと、たんぱく質です。通常は、たんぱく質を主な成分として、様々な栄養素を添加して作られています。
大人用のプロテインは、その製品の性格上、様々なタイプがあります。たんぱく質の種類だけでも、「ホエイ」「カゼイン」「ソイ」があります。これら「ホエイ」と「カゼイン」については、プレーンヨーグルトで説明すると解りやすいのですが、ヨーグルトをスプーンで一カ所だけすくって一晩置いておくと、そこには透明の水のようなものが溜まっているはずです。この液体を乳清(ホエイ)というのですが、この中に含まれているたんぱく質が「ホエイ」たんぱく質です。一方、カゼインはヨーグルトの固形分の方に含まれているたんぱく質だけを取り出したものです(プロテインはヨーグルトから作っている訳ではありませんが…)。そして、「ソイ」については、大豆のたんぱく質です。
もちろん、全く栄養素を添加せずにたんぱく質のみの物、たんぱく質に添加する栄養素も様々なものがあり、各社の狙いは様々ですが、基本的にはたんぱく質を補給することを目的に摂ることが多いでしょう。ジュニアプロテインとは明らかに目的が異なります。
ジュニアプロテインを比較
ザバス (ココア) | ウィダー (ココア) | ビー レジェンド (チョコ) | kentai (ココア) | 普通牛乳 | |
---|---|---|---|---|---|
1食 (14g) | 1食 (20g) | 1食 (25g) | 1食 (21g) | 200㎖ | |
たんぱく質タイプ | ホエイ | ソイ ホエイ | ホエイ | 不明 | カゼイン ホエイ |
エネルギー(kcal) | 51 | 74 | 91.5 | 77 | 134 |
たんぱく質(g) | 6 | 8.4 | 11.8 | 11.1 | 6.6 |
脂質(g) | 0.8 | 0.8 | 1.0 | 1.1 | 7.6 |
炭水化物(g) | 4.9 | 8.2 | 8.8 | 6.32 | 9.6 |
食塩相当量(g) | 0.22 | 0.25 | 0.1 | 0.3 | 0.2 |
カルシウム(㎎) | 462 | 500 | 600 | 306.6 | 220 |
鉄(㎎) | 4.6 | 4.6 | 不明 | 5.0 | 0.04 |
マグネシウム(㎎) | 43 | – | – | 108.6 | 20 |
ナイアシン(㎎) | 1.8-6.8 | 7 | 不明 | 6.53 | 0.2 |
パントテン酸(㎎) | 0.17 | 2.4 | 不明 | 1.3 | 1.1 |
ビタミンA(μg) | 52-159 | – | 不明 | 118 | 76 |
ビタミンB1(㎎) | 0.42 | 0.43 | 不明 | 0.4 | 0.08 |
ビタミンB2(㎎) | 0.43 | 0.54 | 不明 | 0.29 | 0.3 |
ビタミンB6(㎎) | 0.37 | 0.46 | 不明 | 0.38 | 0.06 |
ビタミンB12(μg) | 0.21-1.55 | 0.8-3.0 | 不明 | 1.1 | 0.6 |
ビタミンC(㎎) | 27 | – | 不明 | 19 | 2 |
ビタミンD(μg) | 1.5 | 2 | 2.1 | 2.54 | 0.6 |
ビタミンE(㎎) | 0.3 | – | 不明 | 2 | 0.2 |
葉酸(μg) | – | 90 | 不明 | 67 | 10 |
ビタミンK(μg) | – | – | 66.8 | – | 4 |
大手プロテイン生産会社の商品4つを比較してみると、意外と狙いが異なっているように感じるものがあります。まずは、主要な目的であるたんぱく質の摂取についても、1回分を比較すると一番少ないもので6g、多いものでは11.8gと倍近くの差があります。構成する栄養素についても、ビーレジェンドについては、含まれていることは書かれているものの、正確な含有量については記載されていません。おそらく、原料由来の物なので、測定していないのか、あるいは微量すぎて検出限界以下で、名前だけ記載しているものと思われます。
冒頭の森永さんの説明の通り、各社とも鉄とカルシウムについては、力を入れて加えているようです。が、ビーレジェンドさんだけ、鉄分は添加していないようです。記載のある栄養素が、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなので、明らかに骨の成長に関与している栄養素のみ添加しているようですね。(ビーレジェンドのプロテインの特徴として、最低限の添加のみで、後は自社製のサプリメントで補給してね!って、スタイルの様です)しかしながら、他社が添加していないビタミンKについては、意識してサプリメントなどで摂取しなくても、体内で腸内細菌が産生してくれたり、納豆など発酵食品を摂取したりしていると、十分に摂取できるため、不足する可能性が低い栄養素だと考えられています。そのため、あえて添加する必要はないと言えますね。
鉄分、カルシウム、ビタミンDについては、成長期に必要とされている栄養素ですが、それについては以前ミロVSセノビックVSセノビーのところで書きましたので、そちらをご覧ください。
徹底比較!ミロVSセノビックVSセノビー 身長を伸ばすために必要なのはカルシウムだけじゃない!
その他の栄養素についても、たんぱく質代謝だけに限らず、エネルギー代謝に必要な栄養素、あるいは血液を産生する際に必要な栄養素など、成長期で不足しやすい栄養素を添加しています。
ジュニアプロテインは本当に必要なのか?
ようやく本題に入るのですが、ジュニアプロテインは本当に必要なのか?案外、疑心暗鬼で飲まれている方も多いでしょう。まずは、プロテインを飲む主な目的である、「たんぱく質の補給」についてですが、サポートしているチームなどのジュニア選手の食事調査をすると、大抵は必要なたんぱく質量を十分に満たしています。場合によっては、それ以上摂取しても利用できず、エネルギー消費に回るか脂肪として蓄えられるような量を食べている選手が、結構多く見られます(もちろん、指摘して改善しますが)。特に、主食の肉や魚、卵や大豆製品、乳製品を良く食べる場合には、必要量を越えている可能性は高いでしょう。よって、余程のことがない限りは、プロテインでたんぱく質を補う必要はないでしょう。むしろ、他の食品で充分に補えるような量のたんぱく質だったら、その食品を1つ増やすだけでも良いでしょうね。
例えば、牛乳を200㎖飲むと、たんぱく質は6.6g摂取できます。これはザバスのジュニアプロテイン1回分に相当します。カルシウムも220㎎摂取できますので、牛乳をたくさん飲む選手にとっては、あえてジュニアプロテインに頼る必要もないでしょう。また、オイコスを代表とするギリシャヨーグルトは、ヨーグルトを水切り状態にしているので、その分少ない量でたんぱく質が多く摂取できるようになっています。1カップ(110g)で10gのたんぱく質が摂取できます。
カルシウムについては、身長を伸ばしたいからと、セノビックやセノビーなども一緒に摂取していると、カルシウムの過剰摂取にもなりかねません。小児の耐容上限量(これ以上摂取すると何らかの健康障害が起こる値)は設定されていませんが、これはいくら飲んでも問題ないのではなく
17 歳以下の耐容上限量は、十分な報告がないため設定しなかった。しかし、これは、多量摂取 を勧めるものでも多量摂取の安全性を保証するものでもない
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586565.pdf
ということで、設定できなかっただけです。大人の場合には耐容上限量を2500㎎/日とし、ミルクアルカリ症候群が3000㎎/日で症例報告があるとされています。そこから考えても、身体のサイズが小さな小児の場合には、2500㎎/日よりも少ない量でも、健康障害が起きる可能性がありますので、摂り過ぎには注意が必要です。実際に、私の親戚で牛乳好きの男の子がいましたが、放っておくと1日1ℓ以上飲んでいたら、ブツブツができたり、具合が悪くなっていたりしたようです。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586565.pdf
たんぱく質はどのぐらい必要か?
仮に食が細く、ご飯やパンばかり食べているという小学生などは、身体のサイズが小さいので、摂取する必要があるたんぱく質の量も少なくて十分です。下の表を参考にしてもらえば、如何に少なくても問題ないか?が理解できると思います。
例えば、10-11歳の身体活動レベルⅢ(スポーツしている活動量が多い選手)の男子の場合、80-123gとなっています。これは活動量が普通の身体活動レベルⅡの大人の男性と同じ程度になります。それよりも体が小さな子供の場合は、更に少ない量で充分です。では、この80-123gというと、どのぐらいの食事量なのかというと、たんぱく質を多く含む肉や魚については、その重量の20%程度(魚は食べられる部分の重量の20%程度)、たんぱく質を含みます。ということは、100gの肉を食べたとすると、20g程度のたんぱく質を摂れるということです。
実際に献立の例を挙げて、一日に摂取できるたんぱく質の量を積算すると
ということは、これだけでも十分にたんぱく質の目標量を満たしているはずです。というのも、積算に用いた食材以外にも、様々なおかずを食べているでしょうから、それらにもたんぱく質は含まれていますので、十分に摂取できていると考えられます。また、目標値に幅を持たせているのは、体格差や活動量の差を考慮した物で、より活動量が多いジュニアアスリートの場合には、補食などを摂取するでしょうし、その際にたんぱく質を多く含む食材を具に入れたおにぎりやパンなどを食べれば、更に上積みできるでしょう。これ以外にも、牛乳を夕方にも飲んでいたり、朝食にヨーグルトをプラスしていたりする場合も多いことと思います。ましてや、大人以上に夕食の主菜の肉や魚を食べている選手もいるでしょう。
そう考えると、たんぱく質をジュニアプロテインから摂取する必要はないと考えられます。むしろ利用しきれないだけのたんぱく質を摂取している可能性の方が高くなりそうですね。
むしろ、練習や試合などで必要なエネルギーをいかに確保するか?ということの方が重要です。主菜は良く食べるけれど、主食のご飯やパン、めん類のなどは後回しになっている選手を良く見ます。これら主食に多く含まれる糖質は、身体を動かすエネルギー源としては非常に効率良く、なおかつ脳の重要なエネルギー源です。スポーツにも勉強にも、どちらにも必要な栄養素です。それらが十分に満たされていないのに、主菜でお腹を満たしている場合、練習でエネルギーを使い果たして、練習終盤には動けなくなる、さらには練習でエネルギーを消耗することによって、たんぱく質も動員してエネルギーとするために、成長するための余力がなく、思いの外、成長していないということも起こり得ます。
そうならないように、主食、主菜、副菜などをそろえて、定食屋のスタイル+野菜マシマシ+乳製品+果物という形に少しずつでも近づけていくことが必要です。
公認スポーツ栄養士 柴田至且
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