酵素ドリンク?って効くの?酵素と酵母のお話し

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【酵素について理解していますか?】

酵素というものを冠した健康食品が、相変わらずCMなどでも良く見かけます。また、大手料理レシピサイトなどで酵素というキーワードで検索しても、「酵素ジュース」だけでもかなりの数のレシピがヒットします。この酵素、どんなものだか皆さん理解していますか?

【酵素っていったい何者?】

某お笑い芸人のネタではありませんが、とりあえずウィキペディアで「酵素」を検索してみると…

「生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。酵素によって触媒される反応を“酵素的”反応という」

Wikipediaより

更に「国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所」がリリースしている「健康食品」の安全性・有効性情報にも、このように書かれています。

酵素は、生体内における様々な化学反応を引き起こすための触媒として働く。その本体はタンパク質であり、構成成分として脂質、糖などを含むものも多く、活性を示すためにビタミンなどの補酵素を必要とする場合もある。その活性は、温度やpH、塩濃度により強く影響を受けるが、反応の前後で消費されることはない。酵素は、通常の食品中にも存在するが、消化、吸収の段階で酵素としての働きは消失する。発酵食品においては、微生物がその食品に含まれる成分 (有機化合物) を分解することで、人の消化とは異なるアミノ酸や乳酸などの生成物を含む食品であり、酵素による分解とは異なるため混同しないよう注意が必要である。また、酵素と酵母は全く別物である。

「健康食品」の安全性・有効性情報

もっと身近な例を挙げると、人間の胃の中ではタンパク質分解酵素のペプシン、小腸の中ではトリプシン、キモトリプシンが、同じく小腸の中ではデンプン分解酵素であるアミラーゼ(唾液にも含まれる)、脂質分解酵素であるリパーゼなどが、消化酵素として働くことによって、食事から摂った栄養を吸収しやすい形まで分解する手助けをしています。また、硬い肉をパイナップルやキウィなどの果物と一緒に漬けておくと柔らかくなるというのも、果物に含まれるタンパク質分解酵素を利用したものです。他にも身近な加工食品の中にも、これら酵素の作用を利用したものが多数存在しています。

【酵素って体に効くの?】

実際に、市販の薬の中にも酵素の力を利用しているものが存在しています。例えば、胃腸薬の中にはジアスターゼという成分を含むものがあり、デンプンを分解する酵素が含まれています。人間の分泌するデンプン分解酵素のアミラーゼも、ジアスターゼの一種です。ジアスターゼは大根の中にも含まれ、消化を促す作用があります。大根には他にも、たんぱく質分解酵素のステアーゼや脂肪分解酵素も含まれています。だから、焼き魚に添えられる大根おろしは、消化を助けるのにもってこいで、一緒に食べるご飯の分解も助けてくれるのです。さて、ここまで読んでくると、「おぉ!やっぱり酵素って効果あるんだ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

【酵素の最適条件】

酵素は正しく使えば効果があるものもあります。ただし、これはその特性を理解し、それらが有効に作用する条件を整えて、初めて力を発揮するのです。酵素が働く条件には、それぞれの酵素に最適条件が存在します。適したphや温度がそれぞれの酵素によって違い、それらから外れると極端に能力が低下し、場合によっては全く働かなくなってしまいます。特に温度については、酵素の多くがタンパク質で構成されていることから、タンパク質が変性してしまう温度になると、「失活」といって能力を失ってしまいます。ということは、加熱調理をした時点で、酵素は失活してしまうのです。この点からすると、世の中に出回っている市販の酵素ドリンクの中で、「加熱処理」をしているものは、先ず酵素をそのまま体内に取り入れるという以前に、酵素が失活しているということがお分かりいただけると思います。

では、生の酵素なら効果が期待できるのか?いわゆる「酵素ドリンク」は?酵素ダイエットは効果があるのか?

【酵素ドリンクを作ってみる】

さて、「酵素ドリンク」なるものを手作りしている方が、たくさんいらっしゃることは、大手料理レシピサイトの掲載数を見ても明らかです。そのレシピを見ると、概ね一つの基本的なレシピへと収束していきます。生の果物:砂糖=1:1(重量比)になります。

実は私も作っています。というと誤解を招くかもしれませんが、私もこのレシピで作っているものがあります。それは梅シロップです。他の果実シロップについても、同様にこのぐらいの割合のレシピが多いのが特徴です。中には、「果物の重量→適量、砂糖の重量→適量」という全くレシピの体をなしていないものもあるから驚きます。

さて、このでたらめなレシピで作ってみると、あることが起こる可能性が高いです。それは発酵です。もちろんレシピ通り作ったとしても、発酵してしまうことがあります。この発酵を止めるためにどうするかと言えば、やはり出来上がったシロップを加熱するのです。これは酵素を失活させてしまうというよりも、もっと根本的な理由で加熱します。

【酵素と酵母】

ここで混同されがちな言葉が「酵素」と「酵母」です。上記の発酵を起こすのは、酵母の仕業です。果実シロップを加熱するのは、この酵母を殺すために行うのです。酵母は身近なところでは、パン作りで使うイーストや酒、味噌、醤油などを作るときに働く微生物です。ちなみに、酒や味噌、醤油の醸造に使われる麹菌はカビの仲間ですので、酵母とは少し違います。酵母は空気中にも浮遊していますし、土壌や身の回りにあるもの全てに付いているといっても過言ではありません。

もちろん「酵素ドリンク」に使用する果物などの表面にも酵母がたくさんついています。これらを作るときに果物から浸み出してきた液体の量が多く、糖度が十分に確保できていない場合は発酵するのです。糖度が高いと微生物の活動が抑制されます。糖度が高く、すごく甘いジャムにカビが生えたり、腐ったりしにくいのは、このためです。しかも、「酵素ドリンク」と呼ばれるもののレシピの中には「シュワシュワと泡が出て来たら完成」などと書いているものもあります。この作り方では、明らかに何らかのガスが発生し、発酵もしくは腐敗しています。

私も同様にシュワシュワとさせてみました。といっても、無駄に「酵素ドリンク」を作っている訳ではありませんし、シロップ作りが失敗したわけでもありません。パンを焼くための天然酵母を培養しているのです。こういった果物から起こした酵母でパンを焼くことは、パン作りが趣味の方なら当たり前の事かもしれませんが、一般的にはあまり知られていないことなのかもしれません。巷で売られている「天然酵母パン」の中にもレーズンや生の果実を使って酵母を培養したものがあります。

さて、話は戻ってこれらの「酵素ドリンク」には、どんな酵素が含まれているのでしょうか?それはその果物によって異なりますが、そもそもこの酵素は、実際に人体に取り入れられて働くのでしょうか?

【酵素ドリンクというよりも…】

ここまで読んでくると、おかしなことに気が付きませんか?「酵素ドリンク」を作るはずが、発酵させているし、その中で増えているのは酵素ではなくて、酵母。酵母が増えると、確かに酵母が持っている酵素は増えているかもしれませんが、これを「酵素ドリンク」という風に呼ぶのは、いかがなものでしょう?むしろ“酵母ドリンク”と言った方が良さそうですよね。

もっというならば、おそらく上手く発酵した場合、酵母によって糖質からアルコールと二酸化炭素が作られているはずです。ワインはブドウの果汁を酵母の力で発酵させて作っていますが、これとほぼ同じことが起こっているはずです。要するに、純粋な果実酒です。おそらく、瓶の中からは、アルコールのような発酵臭がすると思います。そして、シュワシュワと発生しているガスは、二酸化炭素です。もし、この発酵臭がせずに、生ゴミから感じるような不快な臭いがしていた場合、それは腐敗しています。腐敗と発酵は紙一重です。有益な酵母が、他の微生物に優先して増加すれば発酵が進みますが、途中で腐敗菌が増えれば、腐敗していきます。誤って、これを飲んだ場合、健康を害する恐れもあります。少なくとも胃の不快感やお腹を壊すということはあるでしょう。

【酵素の力なのか?】

例え、この「酵素ドリンク」の中でたくさん増殖した、生きたままの酵母を飲んで、酵母が持つ酵素も同時に取り込んだとします。酵母もそうですが、酵母が持つ酵素自身も大部分はタンパク質でできています。胃の中では胃酸、腸の中ではたんぱく質分解酵素の作用によって、タンパク質はペプチドやアミノ酸へと分解されるため、これらは酵素という形を保ったまま体内へ取り込まれることはありません。よって、失活していない状態の酵素が人間の体内に入って、そのまま酵素の力を発揮するということはあり得ないのです。だから、酵素の力“のみ”によって体調が変わったり、ダイエットが成功したりということも考えにくいのです。

【結局はカロリーコントロール】

結局、「酵素ドリンク」と呼ばれるものによるダイエットは、カロリーコントロールによる要素が強いと考えられます。「酵素ドリンク」を朝食一食分と置き換えているだけ、あるいは他の食事と置き換えているだけかもしれません。市販品の酵素関連商品の中には、堂々と「置き換え」と表記しているものもあります。

そして「ダイエットに!」などと書かれている酵素関連の市販品などの場合には、例のごとく小さな字で「個人の感想です」、「効能効果を保証するものではありません」や「運動も大切です」などと書かれています。しかも、「栄養豊富」や「○○種の野菜を使用」などと、さも栄養がたくさんあるように見せかけているにも関わらず、詳細な栄養成分の表示がなされているものは少ないです。

そして、自家製の「酵素ドリンク」は果実シロップと言っても良く、これをたくさん飲めば、むしろその糖分で太る恐れもあります。もし仮に「酵素ドリンク」と呼ばれるものを飲んで、他の食事をコントロールしていなくても痩せたという事例があれば、もしかすると次にあげる場合かもしれません。

【お腹の調子は整えるかも…】

「酵素ドリンク」と呼ばれるものには、生の酵母がたくさん含まれているというお話をしましたが、微生物を摂取することで整腸作用が期待できるかもしれません。これはプロバイオティクスという考え方です。ヨーグルトや納豆などの生きた菌を摂取するのも、プロバイオティクスの一つで、最近よく耳にする言葉ですよね?これを簡単に説明することは難しいので、別の機会を設けてお話ししたいと思います。

この整腸作用によってお通じが良くなり、そのため今まで便秘気味だったのが解消されたり、腸内環境が改善されたりしたことで、体調が変化して痩せたのかもしれませんね。

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